徳島も捨てたモンじゃない、『安兵衛』後編

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そのうち、気がついたのだが、上には座敷があるようだ。
長いカウンターが入り口から奥へとのび、左手に細長い厨房、右手にテーブルがある。
焼き物、おでん、刺身、なんと握りずしにバッテラなんかをこの狭苦しい場所で作っている。
カウンター中程に座ったボクの目の前に、大きなダムエレベーターがあるのだけど、いつも何かが上がり下がりしている。
一階二階とも満席状態のようで、カウンターの客も席を立つ人がいると、すぐに埋まる。
後から後からくるお客に話しているのを聞くと、隣も正面にある店も、この安兵衛の支店らしいのだ。
料理を運ぶオバチャンたちもやたらに忙しい。

「ぼうぜの刺身」が初っぱなの生ビールのときにきて、その後がなかなかこない。
これは酒飲みの定法としては困ったものだ。
だからといって、このにぎやかな店の中にいるのが、不愉快ではない。むしろ楽しい。
肝焼きなんだから、焼き鳥だろうと思って、そっちの方を見ていたら、奥の方からオバチャンが皿を持ってきて、ボクの前に置いた。
おお、なんと肝焼きとは、鶏レバーの甘辛炒め煮だったのだ。

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これがびっくりするほどうまい。
徳島(たぶん関西でも)では鶏の肝を甘辛くささっといりつける。
それがそのまま、非常に味よく出てきた。
この一品、逸品であるな。
たぶんこの店の看板ではないだろうか。

ボクの目の前にある「ぼうせの刺身」を見て板前さんが、
「ゆっくりしてくださいね(このへんは関西弁的なアクセント)。ぼうぜ食べたら中骨揚げるけん(ここは徳島弁)」
「はいはい」
いいね、この時間が。
じっくり刺身を味わって、皿ごと、オバチャンに渡す。
ほどなくやってきた唐揚げがうまかった。
刺身はちょっと高めだが、実はマグロなど以外、地魚などは姿作り・刺身で味わって食べ終わったら、中骨を揚げてくれるのだ。

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柔らかとりは焼き鶏で平凡だったが、その後の焼き牡蠣はなかなかうまかった。
池田の銘酒「芳水」の燗酒がなかなかうまい。
支払いは4000円でたっぷりおつりがきた。
生ビールに燗酒を3杯も飲んで、これならうれしいね。

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この店、所謂食堂であったらしい。
いろいろ定食もあるし、握りずし、バッテラなんかもある。
昔、駅を出てバスロータリーを渡ると右手に二階建ての雑居ビル(三階建てかも、それにあれはビルだったのだろうか)があった。
お土産屋、和菓子の富士屋などが入っていたはず。
小山助学館をはさんで、左手にも同じようなビルがあって、そこに確か徳島食堂というのがあった。

カツ丼やオムライス、すしなどなんでもある。
食堂の定義が中華、洋食、和食が揃うことだとすると、まさに典型的な食堂というやつ。
中学生だったボクはそこでカツ丼を初めて食べた。
その隣では燗酒を傾ける大人がいたのだ。
ふと窓の外、歩道、横断歩道に黒いクルマが止まって、そこから女性が出てきたと思ったら、運転席から男性が飛び出してきて、いきなり女性をバシバシっとしばいた(叩いた)のだ。
一緒に食べていた友達となにも見なかった振りをしてもう一度カツ丼に向かった。
初めてのカツ丼、初めて見た男女の生々しい諍い、それが徳島食堂の思い出なのである。
きっとその徳島食堂が居酒屋になったらこんな感じだったろうな、と思いながら店を出る。

安兵衛 徳島県徳島市一番町3丁目22




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コメント(1)

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こんにちは。

ご無沙汰してます。

私も今日、安兵衛で昼酒を楽しんでました。

肝焼きと自家製イカの塩辛。

隣のおじさんにニッカブラックの水割りを御馳走になりました。

徳島から古い店がずいぶんなくなりました。

書かれている徳島食堂も閉店、中野食堂は移転して何とかやってます。

あたりやの大判焼きをお土産に雨の中自宅まで歩いて帰りました。

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このページは、管理人が2009年12月20日 07:38に書いたブログ記事です。

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