ワンカップ図鑑: 2006年9月アーカイブ

 奈良は懐かしい地である。高校生のときに遡るが級友にカッコという男がいた。我が徳島県立穴吹高校は劣等生の吹きだまりのようなところ。そこで1年生のときに出会った。コヤツと出会ってからそんなことで34年にもなるのだ。去年帰郷した折に友との語らいがあんまり楽しくて宿泊していた宿を閉め出されたときにも世話になった。考えるとこの男には世話になったことの方が多い。
 コヤツ入学したばかりの教室に現れていきなり「お前の(「の」というのは問い掛けるとき使う。徳島では柔らかな表現)、ラグビー部にはいらんかだ(「だ」というのは「入ってもらえんだろか」といったニュアンスがある)」とボクに話しかけにきた。上級生だろうなとどぎまぎしたら、なんと同級生ではないか。この男、やたらに老けている。まるで中年のオッサンのような顔、そして体形。
 そしてどういうわけだろう、コヤツと仲良くなって高校時代も3年近くが過ぎて、もうあと半年で卒業と言うときに、ボクはとつぜんもだえ苦しむような猛烈な進学欲に駆られてしまったのだ。それで一浪。だいたい高校生の最終学力試験で県下最下位の人間が大学受験する気になったのだから悲惨極まりない(自慢じゃないがそのときまで生まれてから一度も勉強をしてこなかった)。担任、そして高校中の教師から「おかしいだろ」と言われ、禿になり眉毛は抜け、体重が15キロも落ちてしまった。そして1年たってなんだかんだ大学に入ることができて、ほっとして初めてひとり旅に出たのがカッコの下宿先奈良県奈良市佐保なのである。そのとき19歳。
 だれが見ても中年にしか見えないカッコはまるで江戸時代にタイムスリップしたような古建築に下宿していた。そこから少し歩くと佐保路、近くに秋篠寺、光明皇后の施薬院で有名な法華寺や、バスで出れば東大寺、興福寺、春日大社、新薬師寺、十輪院など古刹を見て回る日々を送ることが出来た。
 実をいうと浪人と言ってももともと勉強なんて大嫌い、受験勉強は半年しか続ける根気がなかった。後の半年は小説と歴史書ばかり読んでいたのだ。当然、和辻哲郎の『古寺巡礼』も亀井勝一郎の『大和古寺風物詩』にも熱中。そんなときに古都奈良に来て息苦しいばかりに古刹巡りをして、帰り着くとカッコ達が酒盛りをしている。その中心にあったのが「やたがらす」である。
 この酒がうまいのか? うまくないのか? わからなかったが、「奈良の酒じゃいっちょうまい」という奈良大学の学生たちの弁を受けて、とにかく毎日1升瓶を開ける日々だった。
 そして30年振りに「やたがらす」がワンカップとして目の前に現れた。神話の世界の3本足の「やたがらす」の絵もそのままじゃないだろうか? この酒が吉野で造られているというので「吉野か、行ってみるかな」なんて気楽な学生時代が懐かしいな。
 味わいは残念がらありきたりなもの。これでワンカップ自体に「やたがらす」が付いていたら太郎も喜んだだろうに。

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●千葉の海人 つづきさんから

北岡本店 奈良県吉野郡吉野町上市61
http://www.kitaoka-honten.co.jp/

 甲府市は寂しい街だったな。賑わっているのは「オカジマ」というデパートだけだった。その地下の食料品店で仕入れたもの。白いカップに白い線画で昇仙峡が描かれている。そして太冠酒造はお隣、山梨県でも初めて出合う酒蔵だ。
 酒蔵の由緒はホームページで見てもらうとして、ワンカップのこと。ワンカップは言うなれば酒蔵の試飲に近いものと受け取っている。だいたい200円前後のものが多く、明らかに旧二級酒である。値段が安い分、合成酒やもっと雑な酒も多いと思うが、ワンカップがうまいと純米酒や吟醸酒などに期待が持てる。近年、その感を強くしている。
 その伝でいえば「太冠」はうまいワンカップである。比較的飲み口が軽く、夏など氷水で冷やして屋外で飲むのもいい感じ。クルマの運転をしないのならリュックに入れて山の見晴らしのいいところでゴクリもいい。そんな軽やかで、しかも味わいのバランスもいいもの。

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●ワンカップコレクター太郎の評価/今まででいちばん面白い。どこの山だろう。この字(昇仙峡)なんて読むの
180ミリリットル194円
太冠酒造
http://www.taikan-y.co.jp/

 福井市から足羽川をかなり遡った山間に城下町越前大野はある。江戸後期の城主、土井家では藩の財政破綻を打開すべく煙草などの産物を大阪に直売店を作る。また藩の船を建造して貿易にまで乗り出す。これは「そろばん武士道」(大島昌宏 学陽書房人物文庫)で読んだんだった。と酒とはなんら関係のないことを書いているが、またまた話はそれる。この越前大野は湧き水の町、そしてそこには天然記念物イトヨが棲息。うまい里芋があり、朝市が開かれる。そして江戸時代の面影が残る家並み。当然、朝市も古い家並みも好きなもので一度だけ訪ねている。この朝市で買った里芋のうまかったこと。
 と、そろそろ酒の話に戻らなければ。その朝市を見に行った折りに越前大野で買った数本の日本酒に「うまい」という記憶が浮かんでこないのだ。どうにも味わいが重く、燗をすることを基本として作られた日向臭い酒ばかりであった。それを今回はワンカップコレクター太郎と一緒に酒屋に行き、勝手に持ってきたのがこれなのだ。不覚にもレジを打つまで気がつかなかった。そしてなんと値段が510円。「待って待って」と言いたかったがちょっと恥ずかしい。結局、いやな出費となった。
 どうして510円かというとこれワンカップには珍しく大吟醸なのだ。きっと吟醸香がもの凄く沸き立つ花花した酒だろう、と思っていた。あにはからんや、ぜんぜん吟醸香が立ってこない。これは香り控えめで味に重点を置いているのだと思ったが、これもほどほど。ワンカップが劣化しやすいとも聞いているが、日本酒専門店であり、別に日向に置いていたわけでもない。「どうしたんだ。これ! 510円はどこへ行ったんだろう?」

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●ワンカップコレクター太郎の評価/ボクが選んだんだから、責任を持って使います。家がいいな。
一乃谷
http://www.itinotani.co.jp/f_main.html

 糸魚川市のスーパーで何気なくカゴにいれたもの。210円であったと記憶する。ボクは透明なグラスに白の絵柄がとてもきれいで好きなのだが、ワンカップコレクター、太郎には物足りないようだ。この絵柄には大人にしかわからない味があるのだ。
 味はなかなかいい。本醸造ではないのだと思うが、糠くささもなく飲みやすい。まじめに作られた普通の酒である。こんなまじめな酒を造るんだから、猪又酒造の他の酒も味わってみたい。
 糸魚川の祭にでも、これが冷やされて振る舞われるとうれしいと思う。個人的にはこのように奇をてらわないわかりやすい酒は好きなのだ。

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●ワンカップコレクター、太郎の評価/もっと色を使え
糸魚川市のスーパーで買う
猪又酒造 糸魚川市新町71-1

 ついつい珍しいワンカップがあると買ってしまう。それで大失敗。娘が蟹座だと思いこんでいたらぜんぜん違っていたのだ。しかもこのワンカップが{?」なのだ。
 甲子正宗というのは千葉にはよくいく割には知らなかった。佐倉といえば順天堂、当然「民博」を出している国立歴史民俗博物館もある。ぜひ一度は行ってみたいところなのだ。酒々井はその隣町。この北総が意外に馴染みがない。
 でも「星座をカップにするなど積極的でいいではないか」と思って買ったのである。そう、間違えてもだ。
 でもその積極的な営業方針が味にも反映しているのか? といったら疑問だな。確かに辛口かな。味わいもある。でも400円近くしてこんなものなのだろうか。売り方からして、ここにもっと上をいく旨さが欲しい。でなければあざとい。

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ワンカップコレクター太郎の評価/面白いけど、星座が違うでしょ。だから×
甲子正宗
http://www.iinumahonke.co.jp/

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