山梨県富士吉田市、都留市などで目につく酒、これがなぜか「英勲」なのである。酒に詳しくない我が妻など「英勲」を山梨の地酒だと思い込んでしまったほどだ。
気になって富士吉田の酒屋をのぞくと実際に「英勲」がずらりと並ぶ。帰る前に一本買ってみようとしていながら買いそびれてしまって、東桂、都留と下る坂道でも「英勲」の文字を見るのだ。結局、高速にのる都留でスーパーに入り、酒売り場に並んでいた「英勲」普通酒1610円を買ってくる。
ラベルには京都府伏見の酒であることがあり、どうして山梨にこれほど「英勲」が並んでいるのか、結局わからずに終わる。本当になぜなんだろう。
買ってきたのは「英勲」でも安いもの。昔の二級酒にあたるのだろう。ラベルがなんだか不思議な八角形の囲みの中に「英勲」の文字がある。この八角形が勲章のメダル部分であり、「英勲」の「勲」は勲章の一字であるようだ。
アルコールはもとより、糖分、酸味料まで添加している。とうぜん生で飲むとややべたつく。甘くはないが、なぜかべたつくのだ。それではと熱燗にしてみると、これが辛口に変身していい味わいなのだ。これは富士吉田の古めいた居酒屋で一献といきたい鄙びた、そして時代遅れの味わいである。きっと団塊の世代ならこの良さが、ボクよりももっと身にしみるだろう。
最後に、やっぱりどうしても「山梨に英勲」の関係がわからない。不思議で仕方ない。
日本酒図鑑: 2007年2月アーカイブ
「同じ四国でも徳島の酒にろくなもんがない」、そんなことを言いながら酒を浴びるように飲んでいた友がいた(今でも生きているが)。これは本当のことでボクの親戚筋にも酒蔵があって、それがまさしくべたべたの日向臭い甘酒であった。とても冷やではのめない。
そこへいくと土佐の「司牡丹」は冷やでうまいのである。これは二十歳すぎに1本飲みきって痛感したこと。やはり酒は辛口がいい。でもそれからいろいろ銘柄を飲み漁る内に「司牡丹」を飲む機会は皆無となってきた。なぜならば「三千盛」や「浦霞」、「鄙願」などと比べるに味わいに欠けるように思えてきたからだ。
そして久しぶりの「司牡丹」。さすがに辛口でうまいのだが、後一歩味わいにもの足りないところがある。
辛口の酒は旨味が薄いのかというと、けっしてそうではない。どーんとした辛みが通奏低音のように続き、様々な旨味が舌を楽しませる。そして喉越しがいいから、その旨味がすぐに消えて芳醇な香りだけが残る。これがボクの理想である。「司牡丹」はこの旨味と辛みのバランスが悪く、つっけんどんな味わいなのだ。
このけっして親しみやすくない味わいを改めて味わって、もっと驚いたのは五十路になって意外に「司牡丹」がうまいと思えたことだ。きっと酒の味わうにボクの方の受け皿が広がったためだと思う。長い間「司牡丹」から遠ざかっていたのを悔やむ。