日本酒図鑑: 2006年9月アーカイブ

 この「一ノ蔵」を初めて飲んだのはもう20年以上前のことだろう。当時宮城県と言えば「浦霞」しか思い浮かばなかったとき。愛読していた季刊誌「四季の味(この雑誌、20ダイから30代初めにはなかなか影響を受けた。今ではあまりに子供っぽくて読み返す気にもなれないのだが)」で取り上げられていて、デパートで買ってさっそくひと瓶あけてしまった。まだ等級制度のあった時代で、しかもこの等級というのがいかがわしいこと限りなしの曖昧模糊とした代物だった。それを申請しないと言う意味合いの「無鑑査」なのである。それを等級制度のなくなった今でも銘柄にそれを謳っても決して飾りではないところが凄いと思う。
 1988年には宮城県の酒蔵まで行って買いもとめたこともあったのだ。当時宮城県は道路はがたがた、大変な旅であったのを思い出す。そして岩手の海岸線での野宿。聞こえるのは海鳥の声だけ、塩釜の市場で買い求めた肴で半分ほども飲んで、窮屈な車内で熟睡した。その朝の海辺の光景は今でも忘れられない。
 さて、どうして「一ノ蔵」がいいのかというと、「高い銘柄も安い銘柄もおしなべて優れている」がためである。この1700円代の安酒の味わい、決して平凡な酒蔵の2000円台後半のものと変わらないレベルをたもっている。なにしろ適度に切れがあるのだけど、ず〜んと続くダレのない辛み、その上、舌を満足させる旨味、このバランスのよさは素晴らしいと思う。
 ちょっと褒めすぎたので、この酒で気になるところを一点。たぶん酒蔵として味わい造りのイメージングがしっかりしているのだと思う。例えば「飲みやすく、しかも飲み飽きない」とか。でも「あばれる」味わいを極力抑えているために無個性であるように思えるのだ。決して飲みやすくない「菊姫」のやり方もある。20年前からたぶんグンと醸造量も増えているに違いなく、今でもそうだろうがいつの間にかなんでも作れる大企業に成り下がってしまいそうだ。

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一ノ蔵
http://www.ichinokura.co.jp/
このサイトまことにうるさくじっくり読む気になれない。これはwebクリエーターが幼く少々おろかなのに違いない。もっと成熟した大人のクリエーターにやり直してもらったほうがいい

 この酒を初めて飲んだのは四谷鈴傳の立ち飲みコーナーじゃなかっただろうか。不思議と記憶に残っているのだからうまかったんだろうな。それを豊田駅近くの普通の酒屋で見つけて買ってきた。ラベルもコピーも昔ならではのもので凝ったところが見あたらない。これなど今時いいではないか。
 そして晩酌にグイと飲んで、あらためて良酒であると再認識した。程良い醸造香(これが強いとうるさい)、最初に来る微かな酸味、そして辛さが長く続いてそのまま喉に消えていってくれる。まことに止まらなくなる味わいで一升瓶があっという間になくなる。これなら飽きがくることなく毎晩やれるに違いない。
 このようなある意味品性のある味わいは普段着の酒を丁寧に造っているから出来るのだろう。しかも酒を飲んでいて富山県福光町に行ってみたくなるのだから不思議だ。

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成政酒造株式会社 富山県砺波郡福光町418
http://www.hokurikumeihin.com/narimasa/

 この「能鷹」あちらこちらの居酒屋で見かける。それでときどきやるのだが、なかなか切れがよくてうまい。でも最近のそば屋、居酒屋というのは吟醸酒や純米酒を置いてはいるが、普通酒はほとんど見かけなくなった。そんなときに近所の酒屋を覗いたら「能鷹 本醸造」が1700円代で置いてあった。
 懐の寂しいお父さんなので、最近は一升瓶で2000円以下の酒を中心に買い求めている。そんな安酒はつまらないなんて思うかも知れないが、このクラスもなかなか奥が深くて、驚くほどうまいものがあるかと思えば、ぜんぜん箸にも棒にもかからないのもある。
 そんなお父さんが寂しいお小遣いから買った「能鷹」、味はどうかと言うとなかなかよかったのである。「安酒がいい酒蔵は間違いなく上級の酒もいい」この鉄則は未だ間違っていたことがない。この本醸造、思ったよりも味わいが重い、でもその分味わい深いのである。しかも燗をつけてよしなのだ。

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田中酒造 新潟県上越市長浜129の1

 群馬県榛名山という名だけで惹かれて買ったのだ。いかにも爽やかそうな名ではないか? その上、ラベルまで美しい。いちばん庶民が手を出しそうな本醸造にこれだけきれいなラベルを作るのだから期待大なのである。
 ところが、この酒、僕の好みから大きく外れるもの。淡麗である。口に含んだときにうわっついた辛みがあり、微かな旨味。さらりと喉を通っていくが、いったいどこにこの酒の旨味や個性があるんだろう。辛さも中庸なので切れが悪い。どうもこの酒を造っている人はあまり日本酒が好きではないのではないか? そんな疑問が湧いてくる。大酒のみのボクにはこの酒の方向性がまったくわからない。
 大吟醸などで数々の賞をもらっているようだから優秀な酒蔵なのだろうが、個人的にはまったくうまいとは思えない。また本醸造がうまくない酒蔵はダメだな。

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牧野酒造
http://makino-sake.co.jp/

 新潟県糸魚川市でワンカップを買って以来なんとなく気になっていたのが「月不見の池」である。それが多摩市の小山酒店にあったのである。多摩地区というより日本でも有数の地酒の専門店、「月不見の池」があってもおかしくはない。でも実際に棚に見つけたときは嬉しかったな。
 ワンカップで味わった、その丁寧な味の造りに、きっと本醸造や普通種もうまいはずであると思っていたのだ。持ち帰ってくるなり、いっぱいやってみた。やはりというか当然、室温でも充分切れがいいし、また辛口の中にも味わいが感じられる。嫌みな香り付けがされてないのもいい感じだ。そして今回、ぬる燗でやってみたが、これもよしである。
 小山に行ったら、今度はもっと上級な酒にも挑戦するかな。

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猪又酒造 糸魚川市新町71-1

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