日本酒図鑑: 2006年7月アーカイブ

 秋田市には一泊したことがある。夕暮れ時に市内に着き懐が寂しいのでカードの使える秋田グランドホテルに宿をとった。考えてみると若気のいたりである。新潟から北上して疲れ果てていたとはいえ贅沢をしたものだ。そして少しホテルでダウンしたあとに酒を飲んだのが川反町である。ヤツメウナギの貝焼き、ハタハタの干物も食べたし、甘い煮物も食べた。
 ここで飲んだ酒が「新政」である。燗をつけてなかなかうまいなと4、5本は銚子をあけただろう。それで翌日、市民市場を見て回った後に1升瓶を買って帰ってきた。これを独り者なので冷やで飲んで、どうにもうまいと思えなかった。当時は酒と言えば岐阜の三千盛一辺倒。辛口のきりりとした味わいが好みであったのだ。それからすると「新政」はゆるいというかズズーンと一本通るような辛さに欠ける。そして味わい自体が軟らかいのだ。
 そして久方ぶりの「新政」である。やはりどことなく穏やかな味わいである。これが燗をすると辛さが表に出てきて味わいに切れがでる。それでも味わい自体はやや軟らかく鋭角的な酒の味が好きなのでややもの足りない。
 でも徐々にこの柔らかさが好きになってきているのはどうしてだろう。五十路を前に好む味覚が変わってきているようだ。

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1升で2300円
新政酒造株式会社 秋田県秋田市大町六丁目2番35号
http://www.aramasa.jp/

 あきる野市五日市から秋川を渡ると戸倉の集落にいたる。五日市の街は長く、それなりに市街地を形成しているが川ひとつ越えると鄙びた雰囲気に変わる。ここが秋山村に続く街道であり、ここから道は狭く川に沿って曲がりくねる。すなわち田畑のある最後の場所であり、ここから奥は森林地帯となる。
 この戸倉が長閑でいいところである。山にこんもり緩やかな平坦部があって、そこに商店が建ち並ぶ。山国を歩いていると、このような小さな商店街というか集落に出くわす。たぶんその昔は秋山村から出てきて、ここで一息いれる。そして五日市の街に農産物や材木を売りに出る。そんな場所だたんだろうな。
 そこに静かな佇まいであるのが「喜正」の酒蔵だ。煙突が見えるし、杉ばやしが下がっていていかにも酒蔵然として見事な一角をなしている。
 この戸倉や秋山村は我が家から至近にある豊かな自然。ここで川遊び、山菜取り、また昆虫や魚を探した後に「喜正」に寄って4合瓶を一本買ってくる。これが一升瓶ではなかったのが、戸倉の爽快な景色とはうらはらに「喜正」の味わいが重たく野暮ったいもの。あまりグイグイとはいかないものであったからだ。
 それがである。久方ぶりにまた立ち寄ってみると、味わいが昔と違っている。喉越しのいい、冷やでもいけそうな純米酒を見つけて、思わず一升瓶を買い込んでしまった。この「喜正 純米酒」のいいところは辛口なのに味があること。そして切れがいい。
 最後につけ加えると前回(10年近く前)「喜正」を買ったときに対応してくれた男性、どうも酒飲みの気持ちというか酒の好みなどの機微がわかっていない。また酒の味わいの表現力もない。それからすると今回対応してくれた女性は対応にそつがなく酒飲みの弱点を知っているようだ。

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野崎酒造 東京都あきる野市戸倉63
TEL:042-596-0123  FAX:042-596-
http://www.kisho-sake.jp/

 三重県というとまったく日本酒の浮かばない県であるが、ボクがそれでも思い浮かべるのが「宮の雪」である。かれこれ20年以上前になるが名古屋のこぎれいな、しかも格安な飲み屋で、これを飲み過ぎて遭難して以来、「宮の雪」を見つけるとついつい買ってしまう。ただし関東ではあまり見かけない。
 この酒、決して銘酒というのではなく良酒といったもの。味わいに突出したところわざとらしいところがなく飲みやすく、それでいて旨味がある。
 四日市というと香ばしく焼き上げたうなぎの蒲焼きが有名であるが、昔から醸造業の発達したところ。ボクが今、もっとも行ってみたいところでもある。そんな旅の居酒屋で端正な「宮の雪」をやるのはいいだろうな。

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宮崎本店
http://www.miyanoyuki.co.jp/

 かれこれ『三千盛』に出合って30年近くなる。それ以来、月6本の『三千盛』を飲むのが20年も続いた。これが経済的に出来なくなって、「純米酒」を買うことが出来るのは正月と誕生日だけになってしまった。まことに人生も「辛口」なのだ。そう言えば好きなあまりに笠原町の酒蔵まで行ったことがある。そのときの酒蔵の印象も簡素でよかった。
 この『三千盛』純米酒の味わいは、きりっとした辛口、そして、どこまでいっても辛さの単な味わいが続いて、そこにやがて甘味と芳醇さが勢いをつけてきて喉に消える。これほどうまい酒があるものか? というのが1升瓶を抱えているときの思いである。
 この旨さを色川武大をして死を予感さしめ、永井龍男、山口瞳などもエッセイに『三千盛』の旨さを書き残している。不思議なのは『三千盛』を好むのは、ボクが大好きな作家ばかりである。

 さて、今日はいたってなにもない土曜日。こんな日に贅沢な純米酒とはいかない。それで本醸造。永六輔の『土曜ワイドラジオ東京』を聞きながら、長野の『山治 平林商店』のしょうゆ豆を肴にする。そして少しだけ昼寝と「極楽極楽」なのだ。

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三千盛へはここから!
http://www.michisakari.com/index.html

●三千盛の蔵は鄙びた風情の気持ちのよいものだったが、ホームページを見るとやたら賑やかになっている。また変な書道家(有名な人なんだろうな)の字に気品がない。でも酒の味わいはいいのだから安心かな。三千盛よ、あまり下世話になるなよ

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