日本酒図鑑: 2006年11月アーカイブ

 近年、酒に重きを置く居酒屋には間違いなく置いてある銘柄。それを久しぶりに買ってきた。すると首に変な物がついている。この首についていた説明書に35歳未満の方は味がわからないなんてことを書いてあって、酒蔵が書くべき文句ではないと少々不愉快になる。これは作る側が書くべきことではない。はっきりいって作る側としては僭越である。愚かなり。それなら売る前に買い手を面接してから売る方がいいんじゃないだろうか?
 まあ、そんな不愉快さはふっとぶほどにぬる燗、熱燗にしてうまい。舌先から滑ってくると辛みが押してくるようだ。そして旨味と甘さが一緒くたに口中広がり、適度な時間を持って消えていく。味に奥行きがあるというか肴がいらぬほどに舌を楽しませ、満足させてくれる。また驚いたことには常温でも出色の味わいだ。これは純米酒として優れたものを、しかも3年寝かせて作り出した味わいか。過去に飲んだ銘柄十指にはいる銘酒である。

hikomago0611.jpg

1升3150円
神亀酒造  埼玉県蓮田市馬込1978

 日本酒好きで「大七」の生もとを知らぬ人はいないだろう? ブログで書くのが恥ずかしくなるくらいの人気銘柄である。
「燗酒が飲みたい」と思ったら石川の「菊姫」、秋田の「両関」か福島の「大七」、大分の「西の関」などがいいと思っている。この3銘柄、品質、味わいともに素晴らしい。
 さて、その「大七 生もと」であるが、驚いたことに室温でもうまいのに気がついた。燗をしようと思って銚子に入れすぎたのをもったいないので飲んだら、室温25度くらいなのに適度に甘味が差して旨口で、舌の底辺で辛さは心地よく続いてくれるし、ダレない。もちろん燗をしたときの節度のある香り、この香りがフルーツやナッツ類のものではなく、あくまでも米の醸し出したときの自然なものなのがいい。飲み口のよさには及ばないものの、室温でもいいというのはぐうたら人間にはありがたい限りだ。

daihiti.jpg

1升 2625円
大七酒造
http://www.daishichi.co.jp/

 こんなところで「義侠」に出合えるとは思ってもみなかった。「義侠」は都心の飲み屋でなんどもお目にかかっている。明らかに他に一頭抜きいんでている銘酒。それをあえて産地で買う必要があるのか考え込んだほどだ。でも新聞紙にくるまれた4合瓶、そのそっけなさがいいので買ってしまったわけだ。値段も純米酒、しかも精米歩合60で1575円は安い。
 この酒の特筆すべき点はバランスのよさにあると思う。香りは抑えめ、そして辛さも旨味も、甘味も、いずれも突出しているところがない。真の日本酒好きはこの手の酒のすごみを感じるはずだ。冷やで、室温で何気なく口に含んで軽やかな辛さがあり、旨味、甘味が来て、そして辛さがまたもどってくる。これも4合でも5合でも軽くやれるのだけど、けっして味わいに欠けるわけではない。飲み終わって「うまいかったな」としみじみ思えて幸せである。

gikyou0611.jpg

山忠本家酒造 愛西市日置町1813

 今や日本酒にこだわっているといいながら、酒屋の言いなりで仕入れているに過ぎない居酒屋には必ずある酒である。ときどき酒のラインナップを見てうんざりするが、この「黒牛」もその仲間である。だいたい酒蔵巡りと言うか地方に行こうがデパートだろうが月に12升の日本酒を20年以上飲み、この10年ほどやっと落ち着いてきて冷静に酒の味わいを楽しめるようになってきた筋金入りのアル中、ぼうずコンニャクとしてはゴタクを並べるヤツは大嫌いなのだ。そんなヤツラに限ってこのラインナップが大好きだ。
 さて、そんな居酒屋が嫌いなのは置いておくとして。「黒牛」という酒を初めて飲んだのは四谷の『鈴傳』である。いい酒だなと感心するとともに、印象の薄さを感じざるおえなかった。なぜならばうま過ぎるくらいにうまいのだが、やりすぎではないかと思ったのだ。すなわち大酒飲みには嫌われるな、という印象。ふくよかで香りもよくてやや辛口、パーフェクトではないか? と思う人は明らかに日本酒がわかっていない。日本酒の良さは欠点にあるのだ。どこと言って欠点がない、そこに魅力が見いだせないと言うことである。
 さて個人的には相性の悪い「黒牛」ではあるが「いい酒」には違いない。酒屋でこれだけを置く店があってもその見識はいいと思えるし、センスも悪くない。でも大酒飲みは来ないぞ!

kurousi0611.jpg

名手酒造 和歌山県海南市黒江846番地
http://www.kuroushi.com/

このアーカイブについて

このページには、2006年11月以降に書かれたブログ記事のうち日本酒図鑑カテゴリに属しているものが含まれています。

前のアーカイブは日本酒図鑑: 2006年10月です。

次のアーカイブは日本酒図鑑: 2006年12月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。