日本酒図鑑: 2006年10月アーカイブ

 伏見の酒というと「甘い」んだな、と敬遠していたのだ。そんなときに近所の酒屋できれいな鶴亀ラベルの一升瓶を見つけた。この店、コンビニながら厳選された日本酒を置いているのだ。この酒の値段が1600円と少し。でもここにあるからにはなにかあるんだろう、と興味津々で購入してきた。
 これがよいのだ。値段から言ったら昔で言うところの2級酒であろう。それなのにやや辛口で飲みやすく、そこはかと感じられる甘味がいい感じだ。これは肩の凝らない普段着の酒としていける。
 これを書くためにネットで「ふり袖」の向島酒造のページを見てみると本醸造のラベルに振り袖娘の絵が、これを見るととても買う気になれない。しかもこのホームページの基本色もその絵の着物地の緑。とてもセンスがいいとは言えない藏元だが、こんどは本醸造を飲んでみよ!

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向島酒造株式会社 京都市伏見区向島橋詰町787-1
http://www.geisya.or.jp/~furisode/

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 愛知県津島市にクルマを走らせていて右手に煙突を発見。建物の造りからしても酒蔵に違いない。あまりに殺風景な幹線道路から右折するとそこは別世界。美しい家並み、水を張ろうとしている田、そして農家。こんな一角が隠されている。しかもぽつんとあるのは不思議で仕方ない。
 狭い建物と建物の間にクルマを止めてちょうど黒い板塀から出てきた男性に「お酒を買いたいんですが?」と問い掛けると、事務所に案内してくれた。ところが酒蔵では売ってもらえないのだという。これは津島の長珍酒造でも同じことを言われて、地元の酒屋をおもんばかってのことのようだ。
 それで津島市の酒屋で購入したのが「雲井 吟醸」である。個人的には吟醸酒というのが苦手である。最近、明らかに吟醸香に重きを置くがために味わいがうるさい酒が多い。その割に味わい薄く甘ったるいなんて飲めたもんじゃない。
 それで冷蔵庫で適温にしてものを口に含んで驚いた。ここにはほとんど吟醸香が感じられない。控えめすぎる平凡な顔の娘のような酒。辛口に出来てはいるが味がない。でも淡麗は淡麗、辛口は辛口である。これじゃ記憶には残るはずのない酒であるな。こんな酒を飲むと石川菊姫の「東山」のすごさを改めて感じる。強弓で打たれたような強い旨味、香り。そこまで行かなくてもいいからもう少し「米を醸した」という味わいを引き出して欲しい。

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山忠新家 愛知県愛西市稲葉江頭18の1
0.72リットル 1580円
http://www.kumoi.com/

 麹を作るにモーツアルトを聴かしたり、丹沢の名水を使用したりと話題の多いメーカーであるようだ。ただしこのようなことには一向に興味がないので、言及はしない。結局酒は飲んでうまいかどうかだ。商売だから話題を作ることは必要かも知れないが、モーツアルトは日本酒には合わない、出来ればブルックナーにしてほしい。
 日本酒は「冷やおろし」となって飲むのがいちばんいいと思っている。できたての日本酒の角の部分、香りなどが落ち着いてくるのには一夏を越させなければならないのだろう。
 そして「白笹鼓 丹沢ひやおろし」であるが、淡麗辛口で飲みやすい優れた日本酒である。酸味がなく、アミノ酸も低いのではないか、これならぐんぐん飲めてしまうので注意が必要。ただ惜しむらくは個性がないことか? また、720ミリリットルで940円というのは安い。

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金井酒造 神奈川県秦野市堀山下182-1
http://www.shirasasa.com/

 滋賀県の酒というのは、なぜにここまで濃厚にいうまいのか? と、いつも不思議に思う。これではあまり量がのめないではないか。そんなときに海人・つづきさんからいただいたのがコレである。ただでさえ旨口で芳醇なとこにもってきて、山廃純米、しかも大吟醸 木桶仕込み。名前も濃厚に重苦しい。
 さぞや、と口に含んで、まさにむべなるかなである。吟醸香とともに口中を満たして来たのは濃厚な旨味である。舌の底辺にはずーっと甘みが差してくる。これでは苦みが上部に抜けてこない。重すぎるな、と暗い気分になってってくる。
 それで同じく、つづきさんにいただいた鮒寿司を舌に乗せたら。その旨味のある酸味と混ざり合って、この濃厚な酒が俄然輝いてきたのだ。飲んでいる気分としては最上級のシェリーのようでもあるが、もっと上質な旨味を感じる。しかし鮒寿司、「不老泉」と続けると720ミリリットルが足りないのだ。半身残った鮒寿司がうらめしい。
 滋賀の酒蔵というのはガンコなのかも知れない。例えば静岡の酒がどんどん様変わりしてきたのとは好対照である。琵琶湖の味によって培われた旨口を多くの酒蔵がそのまま遺伝子としてもって捨ててしまおうとしないのだろう。思わぬところで滋賀の酒を再認識、そして好きになってしまった模様である。

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上原酒造 滋賀県高島市新旭町太田1524
http://www.ex.biwa.ne.jp/~furo-sen/index.html

 静岡の酒には一定の特徴がある。それは端正な味わいであることだ。その端正に磨きをかけて、より上のランクに行った酒が多いと思われる。思うに静岡県は日本でも屈指の酒どころなのだろう。
 その静岡にあって沼津の白隠正宗はどうだろう。残念ながら、特筆すべき味わいがあるわけではないが、静岡ならではのよさを充分持ち合わせている。やや辛口である、そして味がある、飲み口が軽い。やや飲み過ぎに注意が必要なくらいにグイグイやれるのだけれど、そのぶん味わいに深みがない。また辛口と言ってもキリっとしまった男らしさに欠けるように思えるのだ。ただこの点に関しては結局好みの問題でしかない。ぼうずコンニャクとしては沼津に行くと必ず1本下げて帰る「白隠正宗」であるから好きな酒のひとつ。
 また今回の「冷やおろし」は素晴らしい酒であった。これは気持ちのいいくらいにさらっと喉を滑っていく、その心地よさと味わいの深みを持っている。生粋の沼津っ子、飯塚栄一さんが特に取り置いてくれただけの凄い酒であった。飯塚さんには感謝。

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白隠正宗の酒蔵「高嶋酒造」のサイトへ
http://www.hakuinmasamune.com/

 九州の酒というのは焼酎におされて影が薄い。そのなかにあって「名があがる」酒がいくつかある。そのひとつが「香露」だろう。この酒蔵なによりも有名なのは日本で初めて吟醸酒を作り出した酒蔵だということ。30年近く前にはなかなか手に入らなかったはずである。
 そんな「香露」だから普通酒・本醸造はまずいのかなと思ったらあにはからんやうまいではないか。なによりも「旨口」なのがいい。そこに適度に辛さがあって余韻がいい。これで2300円は恐れ入る。

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株式会社熊本県酒造研究所 熊本県島崎1丁目7の20

 愛知県津島市は古い街並みと、また素晴らしい味の店があり、本当にいいところである。その市内を地元の、うなたろう君に案内してもらって「長珍酒造」にたどりついた。津島神社の神域に近い町屋の中に一歩踏み入れて、その吹き抜けの土間。遙か高きから明かりが漏れ落ちてきている。そこで酒を一本もとめて帰ろうとして、御当主らしき老人とひととき話し込んだ。残念ながら酒蔵から直接買うことはできないとのことであるが、静かで有意義な一時を過ごさせてもらった。
 それで市内の酒屋で見つけたのが「長珍 特別純米酒 1425円」である。ロゴのデザインはやや現代的で金色の箔を押しているのが印象的。このようなうるさい瓶はあまり好きではない。ただデザインとしては優れているな。
 特別純米酒とあるのは精米度が60、これを小仕込みで醸し熟成させてあるとラベルに書かれている。その口に含んだときの香りは意外に控えめ。この抑制された香りがいい。香りが適度な分、ゆったりと味わうことが出来る。舌に受けて初めに来るのが辛さ、これがほどよく持続する。そこに旨味と甘さが来てすぐに消えていくのだ。
 これはうまい酒だ。軽く燗をつけても冷やでもいける。720ミリリットルを買ってきたのは大失敗であった。

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購入は津島市内「古川屋」
長珍酒造 愛知県津島市本町3の62

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